今日見かけた救急車、あれはホンモノですか?(仮)

ハッとしたことを何事も無かったかのように伝えるブログ

気高くあれ。

特に急いでも無いのに、歩いている人たちを我先にと抜かす。

エレベーターがたまたま僕一人だけの時、閉まるボタンを連打する。

飲み会のとき、一人一切れの刺身を二切れ食べる。

 

自分の行動がなんか下品だなと思ったとき、

あの気高い紳士を思い出し、襟を正します。

 

郵便局で夜勤のバイトをしていた頃、

ツレと朝マックしてから帰るのが日課でした。

 

そろそろ食べ終わったころ、

60歳くらいの初老の男性が入店。

 

レジで店員さんに何か言っています。

「ナイフとフォークをお願いいたします」

「やっぱり、あなたの笑顔は素敵でございますね」

アルプラザは昨日もいっぱいでした」

 

店員さんはちょっとめんどくさそうでしたが、

男性は背筋をピンと伸ばして話しているのが

とても印象的です。

 

トレイを持って、僕らの方に向かってきました。

そして席を一つ空けた並びに腰を落ち着けました。

 

ホットケーキをナイフとフォークで丁寧に切り分け

手を合わせ、何やらボソボソと呟いています。

胸の前で十字を切りました。

カトリックの方でしょうか。

 

背はピンと伸び、

ホットケーキを口に運ぶ時も、

顔を下に向けるのではなく、正面を見据えたまま

フォークを口まで持っていく、そんな感じです。

これこそ、本物の紳士だと思いました。

 

チラッと入口の方を見ると、

傘立てにステッキが立てかかっています。

持ち手にはシルクハットが。

紳士じゃなければ、なんでしょうか。

こんな人、日本にいるんですね。

 

食べ終わり、トレイはそのままで立ち上がりました。

レジへ向かい、注文の時に応対してくれた

店員さんを呼んでいます。

 

クレームか?そう思った矢先、

「本当においしゅうございました」と

今日一番の声量でお礼を述べていました。

 

この老紳士はどんな時代を生きてきたのか。

その立ち振る舞いは、確かに滑稽に見えるのです。

しかし、朝マックでタバコを吸いながら

ウダウダ言っている自分にとって、

まったくぶれることなく一点を進んでいる、この気高さが

とてもまぶしかったのです。

 

帰る前にトイレで用を足し、

席に戻ってきたときには老紳士はいませんでした。

ツレに聞いても、知らんの一言。

さすが、紳士。去り際もかっこいい。

 

原付にまたがり、エンジンをかけ、

ほなな、と挨拶もそこそこに走り出しました。

 

チラリとミラーを見ると

老紳士が店の前にいる姿が映っています。

ホウキとチリトリを持って。

マクドの帽子をかぶり、ユニフォームを着て。

 

それでも僕は、この気高さを一生忘れないと思いながら、

帰路についた26歳、夏の日です。