今日見かけた救急車、あれはホンモノですか?(仮)

ハッとしたことを何事も無かったかのように伝えるブログ

夏の恋(後編)

目が覚めるような快晴。
吉田くんの運命の日は
朝から晴れ渡っていました。

吉田くん情報によると
ユウちゃんとの待ち合わせは
10時ヒラパー前。

僕と愛ちゃんは
みつからないよう
先に入園して待つことに。

待っている間、
暇なので店長の特徴的な
アゴの話をしました。

店長のアゴは、本当にたくましく
顔にアゴがついているというより、
アゴに顔がついていると思うほど
存在感抜群でした。

あのアゴに勝てるのは誰やろうかと
盛り上がってきたところで
吉田くんとユウちゃんが現れました。

吉田くんは、
あまり表情豊かな人ではありませんが
見たことないような満面の笑みを浮かべ
ユウちゃんの隣を歩いています。


二人は急流滑りに向かいました。
僕たちが尾行していることは
知らないので、絶対にバレてはいけません。

最後の落下ポイントが見える位置で
スタンバイ。

いつ来るかと、
さっきのアゴ話の続きをしながら
待ちわびていました。

来ました、来ました。
急流を滑る舟には
両手を挙げた吉田くんが。
ユウちゃんは顔を下に向けています。

出口の階段を降りてきた二人を見ると
遠めでも分かるくらい
濡れていました。

それから、
レストランやジェットコースター、
迷路やモンキーパークをまわり、
いよいよクライマックスの
観覧車のあるエリアへ。

観覧車の真下にある6つのベンチの
1つに二人が腰掛けました。

しかし、その周辺には
身を隠せる場所がありません。

どうしようかと相談し、
結果、売店で帽子を買って被り、
二人の斜め横のベンチに
座ることにしました。

絶対バレるやろと思ったのですが
案外バレないものです。

話し声から吉田くんの苦労話や
頑張ってるアピールが聞こえました。

テンションを上げてきた吉田くんを横目に
愛ちゃんと二人して
「いよいよやな」と声を殺して笑いました。


とそのとき、吉田くんがくしゃみをしました。
同時にすごい量の鼻水が垂れました。
もう1発、そしてもう1発。3連発です。

ハンカチはおろか、ティッシュもありません。
吉田くんは、手で鼻のあたりを押さえ、
何も言わず走って行きました。

取り残されたユウちゃんは、
遠くを見つめていました。


愛ちゃんが帰ろうと言い、
僕も何も言わず立ち、
その場を後にしました。

出口を出たところで帽子を取り、
ほんじゃあまた、と言って別れてすぐ
僕は愛ちゃんの帽子を持っていたことに
気づきました。

「愛ちゃん、忘れ物やで」
呼び止めたところ、
「捨てといて」と言い、
そそくさと帰っていきました。

これは、誰にも言わないでおこうという
愛ちゃんの意思のあらわれと解釈しました。

夏なのに寒気がして
ブルッと震え、家路につきました。