今日見かけた救急車、あれはホンモノですか?(仮)

ハッとしたことを何事も無かったかのように伝えるブログ

ゲボ

今の自分を形作った出来事は
人それぞれあるでしょう。

中学までは目立たなかった人が
高校生になり、抽選で風紀委員に
選ばれた途端、 隠れたイケメンとして
注目を集める。

その逆もしかり。


小学1年生の夏休みが明けて、
まだ間もない給食時間。

メニューは、
僕のダイスキなカレーと
フルーツをヨーグルトで和えたデザートでした。

たまたま2人ほど休んでいたので
巨漢の僕は、食欲と周囲の期待に応えるべく
ペロッとたいらげ、微かな自尊心を抱きながら
グラウンドに飛び出たのです。

当時、グラウンドには
「回旋塔(かいせんとう)」という
遊具がありました。
※怪我する人が多発したため、
知らないうちになくなりました。

これは、大きな傘のような形をしていて、
開いた先端に吊り輪がついている遊具です。

廻される人は吊り輪にぶらさがり、
廻す人は握った中央の鉄柱を軸に、
吊り輪を持ちながら回転させるのです。

危ないという理由で
3年生以下は使用を禁止されていましたが、
僕はへっちゃらでした。

ここでもまた、自尊心が顔を見せるのです。
「1年生やのに、すげえなー」と
称賛され、何回も廻されるのです。


昼休み終了のチャイムが鳴り、
教室へ。

みんな小走りでそそくさと戻っている途中、
気分が悪くなってきました。

トイレへ!

とにかく急ぎました。

案内表示をみつけ、カーブを曲がり、
入口へ差し掛かったそのとき、
すべてをリバースしてしまいました。

大量の吐瀉物が、
トイレの入口を通せんぼ。

すぐに思い浮かんだのは、
これは、回旋塔のせいだ。
という言い訳。

よく分からない理由で、
その場を後にしてしまったのです。

終礼の時間、
担任のタニガキ先生が
いつもと変わらない様子で
明日の時間割と持ち物を
みんなに伝えました。

助かった。
誰か片付けてくれたんだ。

安堵したのもつかの間、
先生から一言。

「残念なお知らせがあります」


映画バトルロワイヤルの冒頭、
「今からみんなで殺しあいをしてもらいます」
まさに北野武が言った後の、あの雰囲気で。

続けて
「一階の男子トイレに大量のゲボがありました」

ゲボと言っていました。
あのときの大人年代の人達は
そう言うのでしょう。
ジャンケンのチョキを
人差し指と親指で出すように。

「はい、ゲボ吐いた人は手を挙げてください」

思い返すと
あのシチュエーションで
手を挙げることができるくらいなら
自分で処理してます。

もちろん、知らないふりをしていました。

先生は、精一杯の笑顔で
「絶対に怒らへんから、手を挙げて」

そこから陽動作戦です。

「帰られへんよ!」や
「先生からのお願いや」とか
「もう!」という心の叫びまで
さまざまです。

それでも誰も手を挙げません。
なぜなら犯人は僕だから。

心の中では、泣きじゃくっています。
リバースしてすぐに先生に言えば良かった。

先生は、はぁ、とため息をつき、
教室から出て行きました。

数分後、戻ってきたタイミングで
いつもと違うチャイムが。

「あー、あー、連絡です、連絡です」
校長先生の声です。


「みんな、聞いてください」

まるで、ライブでしっとりした曲を聴かせる
アーティストのよう。


「昼休みに1階の男子トイレで
たくさんのゲボがありました」

「自分だと思う人は手を挙げてください」

独特の間で、
校長先生は奏でています。
ここでもゲボと言っています。

タニガキ先生をチラリと見ました。
まるで獲物を狙うチーターのような目で
僕たちを見回していました。

「帰られへんよ!」
尖った声が響きます。

「じゃあ、みんな目をつぶって
机に伏せようか」

「他のクラスの子かもしれへんけど
もし、自分だという人がいたら
手を挙げてね」

「大丈夫、先生が守ったげるから」

「お母さんには、言わへんよ」

「みんな体調悪いときあるからな。
先生だってゲボ吐くときあるんやでー、うふふ」

あらゆる安心できる言葉を言い、

「はい、じゃあ自分やと思う人は
手を挙げてみよっかー」


「先生、僕かもしれません」

あまりのプレッシャーと
事の大きさに押し潰され、
思わず声を出し、手を挙げてしまいました。

「もう!!」

怒らへんて言うたやん、先生。



甘い言葉には裏がある。
それから僕は何でも懐疑的にとらえるように。
ゲボが今の僕を形作ったのです。