今日見かけた救急車、あれはホンモノですか?(仮)

ハッとしたことを何事も無かったかのように伝えるブログ

朝の顔、夜の顔

人は、顔をいくつか持っています。

普段は朗らか。
ハンドルを握れば荒くなる人。

女性を前にすると黙り込む。
男性同士でお酒を飲むと、
素っ裸になる人。

ちなみに僕は、
誰かと一緒のときはスローリー、
一人のときは、ほぼ競歩並みのスピードで
歩きます。

そんな、人はいろんな顔を持つという話。

子供の頃、
地主の人を「豪族」と呼んでいました。
未だになぜだか思い出せませんが
マイブームだったのでしょう。

僕の実家の近所には
多くの豪族がいました。
登下校中に会う
カブに乗った豪族のおっちゃんも
その一人です。

カブの豪族の特徴は
鬼ごっこなどをしていると
「がんばれよーーーー」
と言いながら、遠ざかっていくのです。

たまに鬼から逃げきったときに出くわすと
「お前頑張ったからアメちゃんあげるわ」と
声をかけ、お菓子をくれたりする
優しい豪族です。


小学3年生の夏休み、
僕は幼なじみのヒロちゃんと
クワガタ採りに行く約束をしました。

待ち合わせ時刻は、
なんと午前3時。
クワガタの活動時間に合わせて
決めました。

それほどクワガタへの思いが
強かったと分かっていただけることでしょう。

子供ですから、
ワクワクしてなかなか寝付けません。

案の定、気がつけば3時10分!
急いで着替えて、
待ち合わせ場所に向かいました。

誰かが道端で横たわっています。
ヒロちゃんが網を握りしめ、
道路で寝ていました。

そんな時代です。

僕は自分の網をヒロちゃんの頭にかぶせたところ、
何かを追い払うように飛び起きました。
クワガタの気持ちを理解してくれて良かったです。

そして、クワガタの森へと向かいました。

クワガタの森の入口に到着。
真っ赤なペンキで
「立入禁止」と書かれています。

ヒロちゃんと
「クワガタおるから、禁止ちゃうやん」
と訳の分からないロジックで
正当化し、ずんずんと進んで行きました。

30mほど進むと、畑があります。
ビニールハウスや農具小屋などもあり
本格的な農場という感じです。

畑を通り抜け、クワガタスポットへ。
初めに目を付けた木に二人で体当たり。

10匹くらいクワガタが落ちてきました。

クワガタの森、バンザイ!
二人でそう叫びました。

次は二手にわかれ、
それぞれ違う木にアタックです。

また体当たりをし、
たくさんのクワガタがボロボロと
落ちてきました。

あちゃー!とか言いながら
違う木を蹴っている
ヒロちゃんの方を見ました。

あれ?
なんか光ってる。
なんやろ、あれ。

ヒロちゃん、あれ何やろ?
ヒロちゃんの後方の畑を指差しました。

地上1mくらいの場所から
光っているのです。

蛍ちゃうかー?
とボケた瞬間。
光が上へと昇りました。

そして、顔が見えました。

うわー!!
走りました。

両手に鎌を持った人が
無言のまま、早足で追い掛けてきます。
表情はありません。
無、です。

鎌お化けに食われる!
ほんまに思いました。

草木をかきわけ、とにかく走りました。

痛みなんて気にならないほど
無我夢中です。

ようやく道路に出たものの
恐すぎて二人とも何も言わず
家路を急ぎました。

ちなみに初めて失禁を経験したのが
この時です。

家に着き、泥だらけなのに
震えながらフトンに入りました。
これも初めてです。

翌日、ラジオ体操でヒロちゃんに会いました。

昨日恐かったなあと話ながら、
俺、おしっこみたいなものを
漏らしたわとヒロちゃんは、
照れながら言いました。
二人して失禁です。

ラジオ体操が終わり帰り道、
カブの豪族が前から走ってきました。

カブの前カゴに見えたのは、
二本の鎌と懐中電灯。

そして、
「頑張ってるからアメちゃんあげるわ」
といつものように渡してきました。

必死になって漏らすのを我慢したのは
言うまでもありません。

人は、夜と昼の顔が違うと知った
小学3年生の夏でした。