今日見かけた救急車、あれはホンモノですか?(仮)

ハッとしたことを何事も無かったかのように伝えるブログ

姫路にて。

前職の話です。

 

前職の僕の部署に配属になった中途入社のコモリさん(仮名)。

確か43歳だったと思います。

警備員やスーパーの店長、呉服の営業などを経験してきて

深々とお辞儀するなど、とても礼儀正しい方でした。

 

コモリさんの教育係として白羽の矢が立ったのは僕。

まずは1カ月間、僕と営業同行することに。

なかなかデンジャーな会社だったので、

ここのしきたりや、生き残るための術など

教えることになりました。

 

何と言ってもコモリさんの見た目は

なかなかパンチが効いていました。

なぜなら鼻炎だからと、常にマスクをしている点。

絶対に取らないのです。

性格は明るく、朗らかで人当りは非常に良いのですが

違和感しかありません。

社会人としてどうなのかと思いつつ、

なぜか「マスクを外してください」と言えないような

雰囲気を醸し出していました。

 

それでも人間が良いと思っていました。

が、早くも入社日初日に気づいたのは

距離感をはかれない人だということです。

 

例えば、交通費精算の説明をしているときに

「給料、いくらもらってるんですか?」とか

テレアポチームの部署への紹介後すぐに

「初体験はいつでした?」とか

通勤経路の話をしているときに

「ご両親や祖父母は、どんな仕事をしていました?」とか

おおよそ、出会って一日の人間には尋ねないようなことを

会話の間にはさんでくるのです。

 

もしかして探偵か?

 

そんな疑念が生まれたほどです。

 

しかし、僕のような人間をなぜ調べようとしているのか。

叩いてもホコリの出ない男です。

いずれ真実が分かると余裕を持っていました。

それが、あんなことになるなんて。

 

2日目、大阪府高石市の総合病院へ同行。

コモリさんももちろん一緒です。

 

ちょっとだけアポイントの時間より早く到着したので

羽衣駅近くの喫茶店に入りました。

 

コモリさんの身の上話を聞き、

あの人、不倫してますよとかゴシップネタを披露しつつ、

そろそろ出ましょうかと声をかけました。

 

すると驚くことに、

「もちろん先輩だからおごってくれるんですよね?」と

かぶせ気味に言われました。

 

怖さしかありません。

「もちろん」と言わないと首根っこつかまれるんじゃないかと

恐ろしくて仕方なかったからです。

 

うすうす感じていたコミュニケーションの怖さ。

もうこの人と一緒にいるのは無理だ。

背後に立たないでほしい。ついてこないでほしい。

そういえば歩くとき、僕の視界から消えている。

2日目を終えたとき、僕の頭の中にあったのは、恐怖と不信感でした。

 

3日目、姫路。

コモリさんはいつもよりもよくしゃべり、

テンションが高い様子。

それが余計に怖い。

 

入社日の無垢な自分が懐かしい。

 

神姫バスにて一つ目の医療機関を訪問。

その後、いったん姫路駅へ戻りました。

 

当時、姫路駅では改装工事が実施されていて

通路の中央には白線が引かれていました。

 

僕は、ほんの出来心で白線の上を歩きました。

その真後ろをコモリさんがついてきました。

 

白線から決してはみ出さぬよう、

速足で歩く。

そしてコモリさんはわずか20cmほど後ろに

ピッタリついて歩く。

 

滑稽だったでしょうね。

だって人混みの中、二人のおっさんが

白線からはみ出さぬよう、縦列・速足で歩いているのですから。

 

そんなことはおかまいなしです。

とにかくコモリさんから逃げる。逃げる。逃げる。

恐怖心からなりふり構わず歩いている自分がいました。

 

結局、コモリさんの呪縛から逃れられず、

それから3日後、コモリさんが会社に来なくなるまで

恐怖におののいていました。

 

コモリさんが来なくなってから数日後。

同僚から、コモリさんの机を片付けたら

ウォッカが何本も出てきたとのことでした。

 

お酒を飲んでいたのを隠すため、

マスクをしていたのか。

指先で暗闇に触れたような気がしました。